【事例】相続登記を20年放置していたら

亡くなった人の土地や建物の名義を相続人に変更する“相続登記”は、相続税の申告とは違って、申請する期限はありません。亡くなってから20年後、50年後に相続登記が必要になってから申請しても罰則などはありません。

ただし、申請期限がないからといって相続登記をしないまま放置していると、とても手間がかかり面倒なことになることがよくあります。

相続登記をしないまま放置して、20年後に相続登記をした場合のよくある事例をお伝えします。

夫が亡くなった20年後に、妻が自宅を売却して老後の資金に充てようとした場合

  • Aは65歳で亡くなりました。
  • Aと妻Bは夫婦でA名義の自宅(評価額2000万円)に住んでいました。
  • Aには自宅以外にめぼしい財産はありません。
  • AB夫婦には子どもが二人(長女Cと長男D)いました。
  • 長男Dは結婚していて1歳の息子Eがいます。

この場合、Aの相続人は配偶者(妻)であるBと、子どものCとDです。

B・C・Dは、A名義の自宅はBの物にして、Bがそのまま住み続けられるように3人で納得して合意しました。

しかし話し合いをしたという証拠(遺産分割協議書)は面倒だと思って作らず、相続登記も登録免許税がかかることを知って申請しないでいました。

この段階で仮に相続登記を申請した場合に必要な書類は、
  1. Aの出生から死亡までの戸籍謄本等
  2. Aの住民票の除票の写し
  3. B・C・Dの戸籍謄抄本
  4. Bの住民票の写し
  5. 自宅の不動産の価額を証明する書類
  6. B・C・Dの3人で行った遺産分割協議書
  7. B・C・Dの印鑑証明書

老人ホームの入居費用にするために自宅を売却しようとしたが…

Aが亡くなった後、次のようなことがありました。

  • Dの娘Fが生まれました。
  • Aが亡くなって17年後、Dは51歳という若さで亡くなりました。
  • Bは自宅で一人暮らしを続けていましたが、頻繁に介護が必要な状況になってきたので、老人ホームに入所しようと決めました。
  • 老人ホームの入所費用にするために自宅を売却しようとしたところ、不動産の登記名義がAのままになっているので、まずB名義に変更してほしいと不動産業者に求められました。
  • Eはアメリカに留学していて、日本にいません。
  • Dの妻は、Aの相続でDが1円も相続できていないことに不満を持っているようです。

相続登記をしないまま20年経過した後に、自宅を売却するためBは相続登記をしようとしますが、20年も放置していると必要な書類や手間が増えるばかりでなく、余計なトラブルが起きる場合があります。

Aの相続人はB・C・Dでした。これは20年たっても変わりありません。しかしDが亡くなったことにより、DのAに対する相続権が、Dの相続人“Dの妻・E・F”に相続されているため、Aの相続をどのようにするかは、B・CとDの妻・E・Fで協議しなければなりません。

Aが亡くなった20年前、B・C・DはBが自宅を相続することに合意していましたが、そのことを書面で残していなかったため、基本的に再度、遺産分割協議を行わなければなりません。

どのように財産を分けるか決める遺産分割協議は、相続人全員が合意しなければ無効です。そのためアメリカにいるEに連絡して、書類を送って送り返してもらって…という手間のかかる手続きをしなければなりません。またEが海外転出届を出していた場合、相続登記の申請に必要な印鑑証明書を手に入れることができないため、Eはアメリカ大使館でサイン証明書を発行してもらわなければなりません。

またDの娘Fは未成年です。通常、親であるDの妻が未成年者Fの代わりに遺産分割協議を行うのですが、Dの妻もAの相続について利害関係を持っているため、Fの権利を守るためFの特別代理人を家庭裁判所に選任してもらわなければなりません。特別代理人はFの相続分を法律上の相続分だけ守るようにしなければならないため、原則自宅をB名義にするだけの遺産分割協議は成立させることはできません。原則として自宅をB単独名義にするためには、Fが成人するのを待つか、Fの相続分をBがお金(約125万円)で支払わなければなりません。

またDの妻が、Dが何も相続できないのはおかしいと強く主張した場合には、遺産分割協議がまとまらず、家庭裁判所を利用しなければ、相続登記は最早することができません。Aが亡くなったときに直ちに相続登記をしていれば、Dの妻やE・Fの意見とは関係なく、B名義の相続登記を申請できました。しかし手続きを放置したことによって、一旦まとまったはずの話が、蒸し返しによってトラブルになってしまうこともあります。

遺産分割協議がトラブルなくまとまった場合の、相続登記に必要な書類

Aが亡くなって20年後、揉めずに遺産分割協議がまとまった場合、相続登記に必要な書類は、
  1. Aの出生から死亡までの戸籍謄本等
  2. Aの住民票の除票の写し(住民票の除票が廃棄されている場合もあります)
  3. B・Cの戸籍謄抄本
  4. Dの出生から死亡までの戸籍謄本等
  5. Dの妻・E・Fの戸籍謄抄本
  6. Bの住民票の写し
  7. 自宅の不動産の価額を証明する書類
  8. B・C・Dの妻・E・Fの特別代理人5人で行った遺産分割協議書
  9. B・C・Dの妻・Fの特別代理人の印鑑証明書
  10. Eのサイン証明書(Eが海外転出届を出していた場合に必要)
  11. Fの特別代理人選任審判書

赤字になっているのが、20年後に増えた書類です。

期限のない相続登記ですが、申請を放置することで手間・時間・費用が余計にかかり、場合によっては親族間でトラブルになって、名義を変更する必要があるのに相続登記自体ができないということもあり得ます。

相続登記は、忘れないうちに他の相続手続きと一緒に済ませてしまうのが一番賢い方法です。

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